門 第一話

プラレールは子供用の鞭でありヌンチャクである

聖域とは

神が暮らす聖なる領域である

神々は「門」を通り、聖域から現世へとやってくる

神ならざる者が「門」を開いてはならない

開けば世の理は崩壊するだろう

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昔ジジイによく聞かされてたっけなぁ
あ〜あ、なんでこんな言い伝え思い出してんだろ
そんな状況じゃないんだけどなぁ〜っと

「おら!待てコラ!」

「くっそ、しつけぇなぁ」

第2区画

ここでは常に縄張り争いが行われていた。

ラクタで溢れかえっているこんなとこ取り合ってどうすんだか
どこいってもゴミばっかじゃねぇか

そんなことを思いながら追っ手の連中から盗んだ(かっぱらった)袋を適当に投げ捨てる

「やっぱいーらね、邪魔」

角を右に曲がり、細道に入る。
ここを抜ければ森になる。

森まで来ちまえば「入口」はすぐだ。
よし!アイツらはまだ来てない!

「ばいば〜い」

さぁ、紅松寺へ帰ろう

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「…いねぇ」

「兄貴〜!物はあったぜ!中身も無事だ!」

追っていた男たちは渋々と帰っていった

兄貴と呼ばれた男は悔しそうに呟く

「いつまでこんな生活しなきゃならねぇ」

半分に欠けた太陽を見ながら言った

「聖域に行けたら…」

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俺はこっそりと窓から自分の部屋へ入った。

「今日は収穫なしかい?」

びっくりした

「居たのかよ…」

「居るさ、「神」だからね」

「いや、理由になってないけど…」

ジジイのジジイ…もしかしたらそのまたジジイの時代

「門」を「神」ではない人間が開いてしまい、世界に「歪み」が発生した。

たまたま現世に来ていた神たちは「歪み」が原因で「聖域」へ帰れなくなったらしい

「今日はどこに?」

「第2区画行ってきた。んで追っかけ回されて帰ってきた」

「相変わらずだね」

「おうよ。ついでに収穫もなしだ」

「そうか、それは残念だ。残念ついでに頭領がお前のこと探してたよ。なんかしたの?」

「ジジイが?」

珍しいな
ジジイは大抵、幹部連中と話してばっかなのに…

「分かんねぇけど行ってくるわ」

俺が「じゃっ」と右手をあげると

灯も右手を軽く上げた後、本の続きを読み始めた。

まったくクールなやつだ。
俺の部屋から出ていけ。

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ここくるの久々だな…

ジジイの部屋の前でそんなことを考えていると
襖が空いて人がでてきた。

「兎丸じゃねぇか」

「あ、鞘さん」

「頭領に用事か?」

「なんか俺の事探してたらしくて」

「ほーん、そうか。中にいるぜ」

「ありがと」

中に入っていく兎丸の背中を見ながら鞘は

(本当にアイツにやらせる気なのか…大丈夫かねぇ)

そう思いながら自分の部屋へと戻って行った

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「ジジーイ!来たぜぇ!」

「おぅ」

部屋の奥からジジイはゆっくりとでてきた。
ジジイはその名の通り俺の爺ちゃんだ。

「おめぇ…朝からいなかったな…どこ行ってた」

「え?あ〜散歩だよ散歩!」

「散歩だぁ?てめぇまた勝手に外に出たんじゃねえだろうな」

「で、出てねぇよ!ちゃんと結界の中にはいたって!」

「そうか…空鮫は結界内におめぇはいないと言ってたがな」

げ…しくった…

空鮫さん帰ってきてたのか…
てっきりまだ任務中かと…

俺らが暮らしている紅松寺には結界が張られている。

外界からは組織外の人間がここを認識ができないようになっているらしい。

「ふっ…まぁいい。今日はお前に頼みてぇ仕事があって探してたんだ」

「仕事?俺に?」

「これ持って第5区画へ行け。先に何人か向かわせてるから合流しろ」

「あぁ?!なんでよ!」

「なんでじゃねぇ。仕事だ」

「だからだよ!仕事なんだろ?団の連中に行かせりゃいいじゃねぇかよ!」

「てめぇじゃなきゃダメなんだよ」

「なんで!」

「一族の血を引いてっからだ」

俺とジジイは門番の一族だ。
門番の一族とは神から「門」の守護を任されてきた一族。
「門」が開かれて以降は、各地に発現した「歪み」を正すことを役目としている。

…らしい

「「門」が現世で開かれて以降、「歪み」は増え続けてる。オメェに暇させとく余裕なんかねぇんだよ」

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「くそ…何故俺が…団員じゃねぇのに…」

「しょうがないじゃないか。門番の血を引いてるのは頭領とお前だけなんだから」

「だったらジジイが行きゃあいいだろ!」

「頭領は他の団の仕事で忙しいんだろ」

「くそ…なぁ灯ぃ代わってくれよぉ」

「嫌だね。大体、僕は結界を張るのに力を使ってるせいで外へは出れないよ」

「恨んでやる…」

「はいはい、そろそろ行かないと迎えが」

灯が言い終わる前にドアが開き2つの同じ顔が覗く

「「遅ぇぞん」」

「きちゃったね」

山目兄弟、小柄な双子の兄弟だ。
見分けが全くつかない。

「初めてのお仕事遅刻しちゃうぞん」

「兎丸はオラ達より年上なのにな!ぞん!」

「うるせぇ!」

兎丸が山目の頭をクシャクシャと乱暴に撫でる

「キャキャキャ!」

撫でられた山目は嬉しそうだ。
コイツは兄なのか弟なのか…どっちだ?

「他にも誰か行くの?」

「行かないぞん!オラたちと兎丸だけ!でも先に裏安と金子が向こうに入ってるぞん!」

「そうか…」

「さ!そろそろ行くぞん!」

「しゃあねぇ、チャチャッと行ってくるわ」

「うん、行ってらっしゃい」

「レッツら ぞん!」

「ぞん!」

賑やかに3人は部屋から出て行った。

1人残された灯は椅子の背にもたれかかりながら天井を見上げ考えていた

チャチャッとね…

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守衛団とは!

門番の一族の長が束ねる組織である!
戦闘は勿論、物資調達や情報収集もこなす凄腕集団なのだ!ぞん!

「なぁにが凄腕集団だよ。寺の周りをたまに探索してるだけじゃねぇかよ」

「そんなことないぞん!色んなとこ行ってるぞん!」

「飯とか色々!オラたちが調達してるんだぞん!」

「はいはい」

「くぅ…信じてないぞん」

「次期頭領のくせに酷いぞん…」

「ふざけんな、俺はそんなのやる気ねぇーよ」

「そんなこと言ったって、もう一族は頭領と兎丸しか残ってないぞん」

「兎丸しか継げないぞん」

「あ〜?お前らがやったらいいじゃーん。凄腕なんだろぉ?」

「バカにしてるぞん!」

「してねぇしてねぇ」

「嘘だぞん!」

「嘘じゃねぇよ。つーかマジでよ。俺じゃなくたっていいじゃんか。守衛団の幹部たちとかさ」

「そりゃ確かに兎丸より全然頼りにはなるぞん」

「だろ?」

「でも門番の一族じゃないと歪みを見つけても何もできないぞん」

そんなこと言われてもなぁ…
「歪み」とか「門」とか俺見たことないし…

「兄ちゃん、そろそろ森を抜けるぞん」

「いよいよ第5区画に到着ぞんな」

俺たちは第5区画付近の森へと入っていた。

「兎丸は第5には来たことあるぞん?」

「いや、ないな。第2ならよく行ってっけど」

「じゃあ、気をつけるぞん。第2と違って第5は生態系がかなり違うぞん!油断したらすぐ殺されちゃうぞん…!」

「お腹も減ってきたし、何か捕まえるぞん!」

「だいぶノンキなやついるけど?」

「この辺りなら鳥とかならいるぞんねぇ」

「そういえばこの前捕まえたウサギもこの辺りじゃなかったぞん?」

「そう言えばぞん!探すぞん!」

キャッキャと山目兄弟は森の奥へと進んでいく

「ウサギ…」

ウサギってあれだよな
あの耳が長い可愛いやつ…

「な、なぁ…ウサギってさ。耳が長いやつだよな?」

「そうだぞん!」

「兎丸の兎(ト)だぞん!」

「あれ…食うのか?食うってことはほら…」

山目兄弟は不思議そうな顔をしたが
すぐに理解したようだ

「しょうがないことだぞん…それが食物連鎖ってやつぞん」

「そ、そうか…そうだよな…」

「一昨日食ってたウサギもそうやって食卓に並んだぞん」

え?一昨日?

「一昨日って…あの肉のことか?あの美味かったやつ…」

「そうだぞん!いっぱいおかわりしたぞん!」

「オラもしたぞん!」

キャッキャ!山目兄弟はキャッキャしている。

マジか…あれウサギだったのか…
肉は肉としか認識してなかったからなぁ…
なんかショック…

「落ち込むな少年。そんな日もある」

「そうだよな…」

「食べて感謝する。それが大事さ少年。」

「うん…」

「我らウサギもそれを望んでいるぞ」

「うん…うん?」

俺は今誰と話してんだ?
横を向くと見知らぬ生物がいた

「え…誰?」

「私の名前はウサギ男爵。ダンディなウサギさ!」

ウサギ…?確かにウサギか…
二足歩行だし、俺より背高いけど…
耳なげぇしな…

え?ほんとに?

「でっけぇウサギぞん!!!」

「捕まえるぞん!!」

少し先を歩いていた山目兄弟がこちらに気づいて戻ってきた

「はっはっはっー!アデュー!!」

……足はっや

しばらく追いかけ回していた山目兄弟も諦めて戻ってきた。

「速すぎるぞん…あのウサギ…」

「…走りながらめっちゃ喋ってたぞん…」

「ウサギってあんななのか…?」

「あんなの初めてみたぞん…」

「ウサギ男爵とか言ってたぞんな…きっと新種ぞん」

全部があんなやつではないんだな…
ちょっと安心…

「とりあえず…ご飯は後にして裏安たちと同流するぞん…」

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第5区画 旧清水寺跡地

「裏安〜う〜ら〜や〜すぅ〜生きてっか〜」

「ギリギリ〜」

「そうか〜早く死んでくれ〜」

「あ〜今の傷ついた〜死んじゃうかも〜言葉のナイフで死んじゃうかも〜」

先行して第5区画へ来ていた裏安と金子は
5名ほどの見知らぬ集団に拘束されていた

拘束時に痛めつけられたのだろう。
2人とも顔は殴られた跡、洋服は血と土で汚れていた。

「まだ見つからないのか」

「探索に行った奴らからは連絡はありません」

「そうか…やはり鍵がないと探すのは難しいな」

「元帥は…」

「無理だ。分かっているだろう」

「すいません…」

「アンタら門を探してんのか」

男達は振り返り、拘束されている金髪の男を睨みつける。

「鍵を知ってるってことはこっち側の関係者か?」

「おい、コイツら黙らせろ」

「はい」

「金子くん、君のせいで俺まで殴られちゃうよ。俺喋ってないよ」

「鍵を持たずに門探しなんてほぼ無理ゲー。歪みの周辺をぶらつくだけでも危険なのに、ゴールの見えない宝探しさせるなんてアンタらの親分はとんだ無能か鬼畜野郎だな」

「金子くーん、やめよー。皆すごい顔してるよーやめよー。ぐっ!!」

リーダー格を除いた4人に袋叩きに合う裏安。

「なんで俺…」

「そこの金髪が減らず口を止めない限り、代わりにお前を殴る」

「なぜ…」

「仲間が殺されたくなきゃ黙ってるんだな」

金子は不敵な笑みで呟いた

「そうこなくっちゃ」

 

プロローグ

俺は「門」を守れなかった

駅の中、人混みに1人の少年

少年の服は所々が解れ、血で汚れている
右手には金色に光る何かを握りしめていた

「もう…いやだ…」

人の群れをかき分けて青年が少年に向かって叫ぶ

「やめろ!!!」

少年が握りしめるそれは、掌よりも長い針だった

その針を少年は勢いよく自らの喉に深く突き刺す

その刹那、空間が揺らぎ「歪み」が生じる。
少年は躊躇することなく、その中へと消えていった。

青年は彼は先程まで少年が立っていた場所へ歩みを進める

そこには先程まで少年が握っていた金色の針が落ちていた